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缶詰の常套句

万年筆とか写真とか。

谷崎潤一郎『吉野葛』縁の地を求めて秋の吉野

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を散策するつもりだったのですが、『吉野葛』の舞台は観光地吉野からはおっそろしく遠く、今回はどっちかと言えば色づき始めの紅葉狙いだったので聖地巡礼はお預けです。とは言え、今は入之波までバスが出ているようなのでいつか行きたいですね。

そういう訳で世界遺産吉野の、平々凡々たる観光をしてきました。いえ〜い。

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吉野までは、近鉄なら阿倍野橋から一本です。平日ということもあり、空いた車内でのんびり『吉野葛』を読みながら行きました。

吉野駅から少し歩くとロープウェイ乗り場があり、これが日本最古のロープウェイ。萌える鉄骨ですね。隅っこ流れてるけど。
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2分で上に着き、そこからひたすら歩きます。
吉野山てくてくマップ|吉野山観光協会
ここの地図にある道を奥千本のバス停まで、写真を撮りながらとは言えおよそ2時間。結構な山道です。引き篭もりにはつらい。山登り好きでもない限り、バスで登って下りながら散策するのが得策です。

また、飲食店は竹林院を過ぎると一軒も無いので、ハイキングの前に腹ごしらえはしておいた方が良いです。死ぬかと思いました。桜の季節は出店が出ているのかな、という雰囲気でしたが、秋の吉野は思った以上に静かです。

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山からの景色最高。

アイキャッチ画像にも使いましたが、11月初旬でモミジの紅葉具合は色づきかけ。一番見たかったものが見れました。去年はぐずぐずしているうちに時期を逃してしまったので。

余り上手に撮れていませんが、このまだらになった紅葉が好きなんですよね。個人的には一番綺麗な段階だと思います。
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閑話休題、奥千本のバス停に着いたのが13時前。よし、3分のバスに乗ろう、と思ったら13時台だけバスが無いんですわ。西行庵まで行きたかったけど、登山でへろへろになった脚で1時間後のバスに間に合うとも思えなかったので、金峰神社義経の隠れ塔をチラ見してバス停に帰って来ました。何度も言いますが、バスで登って歩いて下るのが最適解です。いやあ、寒かった。

漸く来てくれたバスに乗りましたが、ツアーの団体の一員と思われたのか、支払いでちょっと手間取りました。バス運賃は先払いみたいですね。マイクロバスの中でも特に小さいものでしか通れないという隘路を下っていくのはなかなかスリリングでした。

体もキンキンに冷えたことだし、吉水神社の敷地内にあるという温泉に入ろうと思ったのですが、鳥居をくぐっても案内ひとつありません。道にあるお店の人に聞いてみると、舗装路の横に見えている細い道を下って行けば着くとのこと。
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それにしても、それにしてもですよ……。誰も人おらんしこんなん落ちたら死ぬやん? ちょうど日帰り入浴の受付時間を過ぎかけていたので、諦めて引き返しました。改めて聞いてみると、この道をひたすら下ると太い道に通じており、その先に元湯があるそうです。
交通アクセス|吉野温泉元湯(奈良・吉野山)
今調べましたが、なんか、南側に道あるっぽいですね……。

ちなみに要予約とありますが、朝電話すると人数の確認だけで、「11時から15時頃までならいつでもどうぞ」とのこと。名前も電話番号も聞かれませんでした。行けなくて申し訳ない。


相変わらず寒いのでとにかく暖まりたく、柿の葉寿司と葛湯を出すお店に入りました。店内はもちろん暖かく、カメラが俄に汗を掻き始めます。レンズもしっかり曇り、慌てて服で拭いても濡れてるし、めちゃめちゃ焦り、ソフトフォーカスみたいになりました。まあ、外側の露なので多分大丈夫でしょう。
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撮るものも撮ったので、後はお土産を買って帰るだけ。法螺貝が並ぶ土産物屋を見ていると、おじさんが出て来て「良かったら法螺貝吹いていって下さい」と言うので教えてもらいました。
管楽器なんてリコーダーしか吹いたことがないので絶対無理やろ、と思いましたが、3回ぐらい試すとボーッと音が出ました。肺活量の問題ではないみたいです。

法螺貝には5種類の音があって、最初の3つは3万円払うと蔵王堂から免状がもらえ、後の2つは入信すると吹き方を教えてくれるそうです。ちなみに一番難しい音は5人しか出せる人が居ないとか。

法螺貝は性転換する貝で、メスのときの殻とオスになってからの殻では厚さや大きさが違います。修験者が山に入るときは頑丈で遠くまで音が響くオスの方、麓で日常の行事のときに吹くのは小さい方、と使い分けていると教えてもらいました。

ちなみに法螺貝は今天然記念物に指定されていて捕獲できないとのこと。
そのお店で葛粉を買いました。何十年も持つそうです。
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あと吉野と言えば柿! という訳で、八百屋さんで6つ300円の袋を買って帰りました。まだ食べていませんが、ぐずぐずになっても美味しいからね。

さて、最後に谷崎の話にちょっとだけ戻り、ずくしの描写を引用しておきましょう。

ずくしは蓋し熟柿であろう。空の火入れは煙草の吸い殻を捨てるためのものではなく、どろどろに熟れた柿の実を、その器に受けて食うのであろう。しきりにすすめられるままに、私は今にも崩れそうなその実の一つを恐々手のひらの上に載せてみた。円錐型の、尻の尖った大きな柿であるが、真っ赤に熟し切って半透明になった果実は、あたかもゴムの袋の如く膨らんでぶくぶくしながら、日に透かすと琅玕のように美しい。(中略)主人が云うのに、ずくしを作るには皮の厚い美濃柿に限る。それがまだ固く渋い時分に枝から捥いで、成るべく風のあたらない処へ、箱か籠に入れておく。そうして十日程たてば、何の人工も加えないで自然に皮の中が半流動体になり、甘露のような甘みを持つ。(中略)しかし眺めても美しく、たべてもおいしいのは、丁度十日目頃の僅かな期間で、それ以上日が立てばずくしも遂に水になってしまうと云う。(谷崎潤一郎吉野葛・盲目物語』新潮文庫、1978、p.29-30 傍点は省略しました)

音読すると大変エロい名文です。