缶詰の常套句

万年筆とか写真とか。

バベルの塔の前前前戯? ベルギー奇想の系譜

 9月はめっちゃブログ書こうと思っていたのに、全然書けてない。やれやれ。適当に猛スピードで書き上げることにしよう。

 話題としてはすっかり旬を逃してしまった感があるが、数ヶ月前に『ベルギー奇想の系譜』展(@兵庫県立美術館)を観に行ってきた。どうせ、ブリューゲルの前座なんだろうと思っていたが、こっちの方が楽しかったくらいだ。みんな大好きボス(派)の版画から21世紀の彫刻やインスタレーションまで、というまさに系譜的な展示。進めば進むほど人が少なくなっていくのは一体どうしたことだろう。マグリットもいるのに。

 ボス派の絵(というか、15-17世紀のフランドル美術、になるのか)は宗教的であると同時に大衆的で、日本で言えば浮世絵みたいな位置にあるのではないかと思う。しらんけど。聖人伝説に主題を取ったものが多くて色々と解説があるわけだが、取り分け頻出する画題が、聖クリストフォロスと、聖アントニウスの誘惑。アントニウスに関してはがっこぅでならったので「あーあれね」って感じだったのだが、聖クリストフォロスの物語に驚いた。何故って漱石の「夢十夜」の第三挿話とクリソツな伝説だったから(クリストだけに)。もしかしたら周知のことなのかもしれないし、或いは早とちりで、漱石の方は別の下敷きがあるのかもしれないが。
 夢十夜のそのエピソードを聖クリストフォロス伝説の翻案だと考えるとなかなか怖い。伝説では、無償で川渡しをしていたおじさんがやけに重い子供を背負って渡すことになり、不審に思って名前を尋ねるとイエス・キリストを名乗ったというもの(もうちょっと続くが割愛)。「夢十夜」では語り手が夢の中で盲目の我が子を背負っているが、それが徐々に重くなり、以前殺した人間の生まれ変わりだと明らかになる。イエスが重いのは、人類の罪を背負っているからだという。「夢十夜」の場合、罪は語り手=背負い手の罪である。罪を肩代わりしてくれる神などないのである。よって救済もない。漱石を読んでいると、神の無さに打ちひしがれることがある。神は無いのに、罪には敏感である。無論その罪は神との関係性におけるそれでは無いのだろうが。

 話が逸れたが、文系をやっている人間にとってボスと言えば阿呆船である。ポリティカリーコレクトに言えば「愚者の船」か。この題を冠さない絵にも、同様のモチーフが見られる。愚者の内実は「狂人」であり、そこには今では同性愛者や障害者とカテゴライズされる人々が含まれる。フーコーは拾い読みしかしたことしか無いのでよく知らないが、「狂人」を海に流す、みたいなことが昔行われていたらしい。制作意図というのもよく分からないのだが、色んなキャラの集合イラストのようで楽しいし、どうも暗いテーマではなさそうである。集合イラストという点から見ると阿呆船の集合具合は優しい方で、ブリューゲルなんかになると、登場人物がとても多い。「とても多い」などと書くと多くなさそうだが実に多い。色んな人が色んな処で色んなことをしているのをキャプチャした絵画の傾向と、百科全書的な欲望との関連が指摘されていたように思う。
 それで観ていて思い出したのだが、寄藤文平のイラスト、特に『死にカタログ』等々の見開きイラストは、彼らの版画と非常に近いものがある。随所で様々な人間が好き勝手なことをしているが、全体としては筋の通った感じ。思わぬところに系譜が繋がるものだ。

 19世紀以降のベルギー美術の展示もたいへん面白く、好みの絵や作品はたくさんあったのだが、余り書くことがない。ひとつだけ。マルセル・ブロータールスという人の『猫へのインタビュー』という作品。何が待ち受けているのだろう、とウキウキしながら仕切られたブースに入っていくと、白い空間の奥にスピーカーが二台。ナメてんのかと思うほど音の小さいそれに近づくと、流れている音声のスクリプトが置いてあり、「これはパイプですか?」の他、現代美術に関する問いかけに対して猫がニャーニャー鳴く音が流れてくるというもの。空間の広さとボリュームの低さは音が漏れてネタバレにならないように、という配慮もあるのかもしれないが、「よい音響」というものに対する斜に構えた態度とも思える。
 パイプに関してはもちろんマグリットの<<イメージの裏切り>>が背景にあり、この作品に当てはめるならさしずめ「これはインタビューではない」、あるいは寧ろ「これはインタビューである」ってな表現になるのかもしれない。

 ところで図録まで買ってしまった。フランス製本の図録って、余り無いのではなかろうか。しかしカードで払わせてほC。というのはさておき。県美プレミアムの「Out of Real」もちゃんと観に行って、めっちゃ面白かったんだけど、もう眠いので書けない。

 後日、意気揚々とバベルの塔(@中之島)を観に行った。ウィーンで観たのとなんか違うな、と思ったら別バージョンである。<<バベルの塔>>はふたつあるのだ。絵画も立派だったが、最新技術を用いて制作された高精細拡大複写と、3DCG映像がすごかった。こんな半端無く金の掛かりそうな技術によって、昔の一人の人間の手仕事の凄さがいやましに増すなんてすごい、夢がある。<<バベルの塔>>はめっちゃ良いし、ブリューゲルはかなり好きなのだが、前菜に関してはあまりぐっとくるものがなかった。物販に気合が入っていた。鳥獣戯画かってぐらいグッズが作られてあった。マネタイズも大変だなあ。以上。